『ひたすら読むエコノミクス』
2012年4月に有斐閣から出版された『ひたすら読むエコノミクス』通称『読むエコ』のページです.詳しくは以下でダウンロードできる第1章で説明していますが,この本は教科書ではありません.「副読本」として使われることを想定しています.知的好奇心を持ってもらうために,あえて入門レベルを超えたトピックにもふれています.また,図表なしに文章だけで説明することが,わかりやすく説明するもっともいい方法だと考えているということでもありません.興味を持てたら授業や教科書で勉強しましょう.僕は前任校で商学部生を対象とした(ミクロ)経済学の入門講義を担当していましたが,この本を事前に読んでもらって,授業ではその内容をもう少し厳密に,図表や数式を用いて講義する,というふうに使っていました.
書評ほか
- 書評:週刊エコノミスト2012年5月15日号 (土居丈朗)
- 著者インタビュー:週刊東洋経済2012年6月2日号
- 書評:中央公論2012年8月号 (経済学者の書棚,松井彰彦)
- 『読むエコ』登場 書斎の窓2012年7-8月号 (No.616),有斐閣 (pdf)
- 「経済学は役に立つのか」2012年度第2回一橋大学政策フォーラムでの講演,2012年12月14日 (YouTube)
- ミクロ経済学と合理的選択(裏題名:『読むエコ』の読み方).『書斎の窓』2014年9月号(No.635)有斐閣.
本書の生い立ち(あとがきに書いたこと)
本書が誕生することになった主なきっかけは3つあります.第1に,2004 年に学内誌の「学問への招待」という特集のために,「商学部生への経済学のススメ」というエッセイを書いたことです.その内容の多くは本書にも反映されています.幸いなことに,このエッセイがきっかけとなって,経済学を勉強したり僕のゼミナールに参加することになった学生が多数いたようです.また,他の大学の授業や新入生オリエンテーションの参考文献として紹介していただいたこともありました.
第2に,これまで僕が執筆した一般向けの文章をまとめて入門書を出版するという企画のお話をいただいたことです.2005 年頃のことです.研究中心で一般向けの執筆は少なかったのですが,まとめるとそれなりの分量にはなります.ありがたいお話でしたが,正直あまり気が進まないまま時間が過ぎていきました.
そうこうしているうちに所属する商学部の授業カリキュラムの改革があって,2007 年度から主に商学部生のために経済学の入門講義を担当することになりました.これが最後のきっかけです.学部が提供する経済学の授業は他にはほとんどなく,カリキュラム全体の中での経済学の位置づけも明確になっていません.僕のゼミナールでさえ,「商学部生なのに経済学,ゲーム理論」という意識の学生がいたりします.興味を持って勉強する学生がいても,「理論としておもしろくても所詮現実は別」というふうに,学習したことと「現実」とを区別して考える傾向があります.そこで,履修学生のモチベーションを高めたり,理論と現実を結びつけてもらうことを目的とした「小話」を少しずつ蓄えていくことにしました.
以上をきっかけとして,2009 年から平均月1 回のペースで担当者の方に研究室に来ていただき,3 時間ほど執筆に集中するという「コミットメント」戦略(第3 章参照)を繰り返して,ようやく本書は完成に至りました.
目次
- 第1章 経済学を知っていますか?(pdf)
- 第2章 「スマート」に決める原則:ひとりの意思決定
- 自分で決めるのに実は複雑!?
- 決めることはあきらめること:トレードオフ
- 意思決定の落とし穴,その1:機会費用
- 意思決定の落とし穴,その2:サンクコスト
- 「もう一杯!!」を考える:限界分析
- いろいろな「費用」
- 第3章 駆け引きのなかで決める原則:ゲーム理論超入門
- 向こうから自転車が来たら…
- 「神の手」か「相手の意思」か:2 つの不確実性
- 人はひとりでは生きられない:ゲーム理論が扱う状況
- 自転車ですれ違うケース:コーディネーションが重要
- デートの主導権はどっち?:利害が絡むコーディネーション
- 相手の行動を予想できる?:確信ゲーム
- 我慢強さが勝負のカギ:チキン・ゲーム
- 最善の結果は実現できない?:囚人のジレンマ
- ゲームは変えられる!
- 先読みでゲームを変える
- 自分を縛ることでゲームを変える:コミットメント
- 第4章 多数の意図が交差する場所:市場の成功と失敗
- 大勢が参加する「市場」
- いくらならラーメンを食べる?:個人の留保価格
- 払えるお金は人それぞれ:市場での需要を探る
- 売手が買手を独り占めできる場合
- どうやって販売価格を決めるか:利潤と費用と需要量の関係
- 消費者の好みによって価格を変える:価格差別
- 無数の人々が取引に参加する世界:市場と均衡
- 本当に均衡にたどり着くの?:市場メカニズムの実験
- 市場はなぜよいのか?
- でも市場は絶対ではない
- 第5章 現実世界は霧のなか!?:不確実性と情報
- 情報が重要!:霧の中での意思決定
- リスクは回避したいもの?
- チャレンジは人それぞれ:リスクを金額で評価する
- 金額以外でもリスクは評価できる!:期待効用で考える
- 誰がリスクを負担するか?:リスク分担
- 第6章 サボリの誘惑に打ち勝つ:モラルハザードとインセンティブ設計
- ある年の流行語
- さまざまなモラルハザード
- モラルハザードは「倫理の欠如」じゃない
- 利害の不一致が問題を生み出す
- 「隠された行動」への3 つの対処法
- 業績連動報酬の問題点
- 大切なのはお金だけじゃない
- 第7章 真実を引き出す:逆淘汰とインセンティブ設計
- 優良顧客が減っていく…
- 消える取引,消さない工夫
- 情報の偏りは必然
- 情報を隠して交渉に勝つ
- 口先だけでは伝わらない:シグナリング
- 決定をゆだねて,情報を引き出す:スクリーニング
- 第8章 見えざる手は創れるか?:マーケット・デザイン
- 市場は絶対ではない
- 本当の評価をつきとめる仕組み:オークション
- 4 つのオークション方式
- 自分が最も得をする入札戦略
- オークション方式の決め方
- 出し抜き合戦による市場の失敗への対策:マッチング
- キーワードは安定性:みんなが納得するマッチング
- マーケット・デザインが現実を変える!
- 第9章 思惑の衝突を超えて:組織デザイン
- 市場を介さない取引:ブラックボックスを開けてみよう
- 権限関係のデザイン:分権か集権か?
- 組織内のコミュニケーションは難しい:それぞれの思惑と情報伝達
- 組織内の調整も難しい:コーディネーション問題
- ちゃぶ台返しはヤル気を挫く!?:権限委譲とコミットメント
- 任せた後で起こること:エージェンシー問題,再び
- 市場も組織も一筋縄ではいかない:企業の境界
- まとめとおまけとあとがきと
誤植
- 誤植(第5刷で修正済み)
- 60ページ(第3章)第8節3行目:(誤) 黙否 (正) 黙秘
- 97ページ(第4章)10行目:(誤) 300円以下かつ325円より高い (正) 300円以上かつ325円未満
- 誤植(第3刷で修正済み)
- 61ページ (第3章) 2行目:(誤) 価格を維持をする (正) 価格を維持する
- 69ページ (第3章) 後ろから2行目,1行目:(誤) 夏川 (正) 夏谷
- 70ページ (第3章) 4 行目:(誤) 夏川 (正) 夏谷
- 137ページ (第6章) 12 行目:(誤) すべて手にれる (正) すべて手に入れる
- 141ページ (第6章) 後ろから8行目:(誤) 繰り返する (正) 繰り返す
- 162ページ (第7章):7-11行目:「一方,みかん自身の留保価格~どちらかであることしかわかりません.」の箇所は,正しくは以下の通りです.(正) 「一方,低品質の商品を売るみかんの留保価格はゼロで,買手のサザエにも知られていますが,高品質の商品を売るみかんの留保価格は彼女のみが知る情報です.忍耐強い場合は4000円,強くない (早く処分したい,価格が低くても売りたい) 場合は2000円としましょう.サザエには高品質の商品を売るみかんの留保価格が4000円か2000円のどちらかであることしかわかりません.」
- 162ページ (第7章):下から1-4行目:「みかんが忍耐強くない~」の箇所は,正しくは以下の通りです.(正) 「高品質の商品を売るみかんが忍耐強くない (つまり留保価格が2000円の) 場合のみ取引を成立させることになります.以上の分析から,留保価格が低いみかんは,高品質の可能性が非常に低い状況では取引できません.ここで,もしも高品質の商品を売るみかんが...」
- 198ページ (第8章) 10行目:誤植というわけではないのですが,ロスは2012年にスタンフォード大学に異動しました (正式には2013年から).
- 216ページ (第9章) 後ろから8行目:(誤) 正否 (正) 成否
- 218ページ (第9章) 後ろから10 行目:(誤) 済まされないというという判断 (正) 済まされないという判断
- 227ページ (第9章) 4行目:(誤) 高まります,(正) 高まります。
- 234ページ10行目:(誤) 寶多 (正) 寳多
- 誤植(第2刷で修正済み)
- 25ページ (第2章) 下から3行目:(誤) 第ふたの条件 (正) 第2の条件
- 121ページ (第5章) 5.誰がリスクを負担するか? の5-6行目:(誤) 保険会者 (正) 保険会社
- 153ページ (第7章) 下から2行目:(誤) 隣り合った2件のレストラン,アラン亭とビストロボン (正) 隣り合った2軒のレストラン,アラン亭とビストロボン
- 196ページ (第8章) :このページに出てくるアメフトの特別試合の「ボール」は,通常の日本語表記では「ボウル」だとの指摘をいただきました.
- 200ページ (第8章) 下から10行目:(誤) みかづき病院 (正) しんげつ病院
- 209ページ (第9章) 下から11行目:(誤) 参加者して商品やサービスを (正) 参加して商品やサービスを
- 213ページ (第9章) 下から2行目:(誤) 隣り合った2件のレストラン,アラン亭とビストロボン (正) 隣り合った2軒のレストラン,アラン亭とビストロボン